会社員に向いてないのかもしれない。「上司に好かれる部下」を演じられなかった僕の話
深夜、検索窓に「会社員 向いてない」と打ち込んだことがある。
打ち込んでから、少しためらって、消した。
検索結果を見るのが怖かったのだと思う。
「向いてないなら、どうすればいいのか」の答えを、まだ受け止める準備ができていなかった。
これは、「自分は会社員に向いてない」と思いながら働き続けた、僕の話だ。
あの夜の僕と同じ言葉を検索して、ここにたどり着いたあなたに読んでほしい。
僕が「向いてない」と感じた、3つの場面
仕事そのものが嫌いだったわけではない。
それでも「向いてない」と感じる場面は、決まって3つあった。
ひとつめは、社内の人間関係だった。
雑談の輪に、自然に入れない。
誰かと誰かの関係を読んで立ち回る、ということがうまくできない。
仲が悪い人がいたわけじゃない。
ただ、「うまくやる」ために使う神経が、人の何倍も要った。
ふたつめは、もっとはっきりしている。
僕は、「上司に好かれる部下」を演じることができなかった。
かわいがられる同期を見ていると、やり方は分かるのだ。
相槌の打ち方、質問の仕方、褒められたときの返し方。
分かるのに、できない。
やろうとすると、自分に嘘をついているようで、体が動かなかった。
みっつめは、飲み会だった。
会社の飲み会の場が、苦痛だった。
楽しめる人を否定する気はまったくない。
ただ僕にとってあの時間は、業務時間より消耗する「延長戦」だった。
断れば付き合いが悪いと思われる。
行けば、笑顔の電池が切れていく。
どちらを選んでも、すり減った。
仕事ができないわけじゃない。なのに、消耗していく
ここが、この悩みのややこしいところだと思う。
「向いてない」と言うと、仕事ができないことを想像されがちだ。
でも、僕は仕事そのものでは、それほど困っていなかった。
作業は覚えられるし、成果物も出せる。
消耗していたのは、仕事の中身ではなく、仕事の「まわり」だった。
空気を読む。
演じる。
輪に入る。
付き合う。
その全部に、他の人の何倍も電池を使う。
だから夕方には、仕事ではなく「会社にいること」に疲れ果てている。
もしあなたも同じなら、まずこれだけは知っておいてほしい。
あなたが消耗しているのは、能力が足りないからではない。
いまの場所が、あなたに「演技」を要求しすぎているからだ。
向いてないのは「会社員」か、それとも「その会社」か
当時の僕は、「会社員に向いてない」と一括りに考えていた。
でも、いまなら少し違う問いを立てられる。
向いてないのは、会社員という働き方そのものなのか。
それとも、演技と飲み会と根回しをセットで求めてくる、「その会社の文化」なのか。
世の中には、雑談より成果物で評価する職場も、飲み会がほとんどない会社も、リモート中心で人間関係の濃度が薄い環境もある。
同じ「会社員」でも、要求される演技の量は、場所によってまるで違う。
だから、「会社員に向いてない」と結論を出す前に、一度だけ切り分けてみてほしい。
仕事の中身が嫌いなのか。
仕事のまわりに消耗しているのか。
後者なら、あなたに必要なのは「会社員を諦めること」ではなくて、演技の少ない場所への引っ越しかもしれない。
僕は独立を選んだ。でも、それだけが答えじゃない
僕自身は、最終的に会社を辞めて、独立して働く道を選んだ。
いまは、演じなくていい。
飲み会もない。
人間関係は、自分で選べる範囲に収まっている。
あの消耗が働くことそのものへの適性の問題ではなかったことを、いまの働きやすさが証明してくれている。
ただ、正直に書いておきたいことがある。
僕は独立する前に、自分の市場価値を一度も調べなかった。
いまでも、それだけは後悔している。
自分が転職市場でどう評価されるのかを知っていれば、「独立か、今の会社か」の二択ではなく、「演技の少ない別の会社」という三つめの選択肢まで、ちゃんと比べたうえで決められたはずだから。
だからあなたには、決断の前に、選択肢を全部テーブルに並べることをすすめたい。
「向いてない」と検索した夜のあなたへ
演じられないことを、僕は長いあいだ、自分の欠陥だと思っていた。
でも、違った。
演じられないのは、自分に嘘をつけないということだ。
それは、場所さえ合えば「誠実さ」と呼ばれる性質だった。
いまの場所で欠点に見えているものが、別の場所では強みになる。
その可能性を確かめる方法は、思っているより身近にある。
転職活動を何から始めればいいかを眺めてみるだけでもいいし、いまの自分にどんな選択肢があるのかを、先に知っておくだけでもいい。
向いてないのは、あなたじゃなくて「置き場所」かもしれない
魚を木登りで評価したら、一生「向いてない」と言われ続ける。
あの頃の僕は、木の上で消耗している魚だった。
あなたがいま「向いてない」と感じているなら、疑うべきはあなた自身ではなく、置き場所のほうかもしれない。
演じなくていい場所は、ある。
僕はそこから、これを書いている。
――「会社員に向いてない」と悩み続けた、僕の話でした。
※この物語は、実体験をもとに、一部に脚色を加えています。