不満はない。でも辞めたい。新卒2年目で会社を辞めて、独立した話
朝、アラームの音で目が覚める。
満員電車に揺られて、会社に着く。決まった席に座り、決まった仕事をこなす。
新卒で入った、IT系の事務職だった。
給料に不満はなかった。人間関係も、特に悪くなかった。上司にも同僚にも、恵まれていたと思う。
それなのに、心のどこかで、ずっと同じ問いが聞こえていた。
「このまま、この会社で働き続けて、いいんだろうか」
やりがいを、感じられなかった。
毎日は、静かに、平穏に過ぎていく。誰も傷つけないし、誰にも傷つけられない。
ただ、その平穏の中で、自分が少しずつ薄くなっていくような気がした。
不満がないからこそ、誰にも言えなかった。
「給料も人間関係も悪くないのに、辞めたいなんて、甘えだろうか」
そう思うと、相談する相手もいなかった。
ブラックな職場なら、まだ分かりやすい。でも「悪くない会社を辞めたい」という気持ちは、うまく言葉にできなかった。
転機は、ある人との出会いだった。
会社を辞めて、独立して、個人事業主として生きている人。
その人は、自由で、そして——幸せそうだった。
満員電車にも乗らず、自分のペースで働き、好きなことで生きている。
その姿を見たとき、胸の奥で、何かがはっきりと音を立てた。
「自分も、こうなりたい」
ずっと曖昧だった違和感が、初めて、行きたい方向に変わった瞬間だった。
でも、すぐには動けなかった。
「辞めます」——その一言が、どうしても言い出せない。
お世話になった上司の顔が浮かぶ。期待を裏切るような、恩を仇で返すような気がして。
退職届を書いては、閉じた。何度も、何度も。
それでも、と思った。
人生は、一度きりだ。やってみたいと思える道が、初めて見つかったのだ。
怖さはあった。安定した収入を手放すこと。社会のレールから、外れること。
でも同時に、これから始まる毎日への、ワクワクもあった。
怖さとワクワクが、同時に押し寄せてくる。
「もう、やるしかない」——そう腹をくくった日のことを、今でも覚えている。
会社を辞めて、独立した。
朝、アラームをかけなくなった。
夜は好きな時間に眠り、朝は、自然に目が覚めるまで眠る。
満員電車に、乗らなくてよくなった。
組織の人間関係に、縛られなくなった。
もちろん、いいことばかりじゃない。
毎月決まって入ってくる、安定した収入はなくなった。
ふとした瞬間に、「社会のレールから外れてしまった」という感覚が、胸をよぎることもある。
それでも——朝の光の中で、「今日は何をしよう」と、自分のために一日が始まる。
あの感覚だけは、何にも代えがたかった。
「不満がないのに辞めたい」は、甘えじゃない
もし今、あなたが「不満はないのに、なぜか辞めたい」と感じているなら。
それは、甘えでも、わがままでもない。
限界まで追い詰められていなくても、人は「このままでいいのか」と問う。
それはむしろ、自分の人生を真剣に考えている証拠だと思う。
不満がないからこそ、言い出しにくいし、相談もしにくい。
でも、その静かな違和感を、なかったことにしないでほしい。
ただし、ノープランで辞めてはいけない
ひとつだけ、正直に伝えたいことがある。
勢いだけで、ノープランで辞めるのは、おすすめしない。
自由には、安定を手放すという代償がある。それは、きれいごとではない。
計画とBプランがあれば、意外となんとかなる
でも、と思う。
しっかりと計画を立てること。そして、もしうまくいかなかったときの「Bプラン」を用意しておくこと。
その2つさえあれば、意外と、なんとかなる。
僕自身が、そうだった。
辞める前に、貯金はどれくらい必要か。最悪の場合、どう立て直すか。
そこまで考えておけば、一歩を踏み出す怖さは、ずいぶん小さくなる。
それでも、言い出せないあなたへ
計画はできた。気持ちも決まった。
それなのに、「お世話になった上司に、どうしても言い出せない」。
——そこで止まってしまうのが、一番もったいない。
僕も、言い出せずに何度も退職届を閉じた。
でも今は、自分の代わりに退職を伝えてくれる方法もある。
最後の一歩が踏み出せないなら、そういう選択肢を知っておくだけでも、心が軽くなるはずだ。
逃げじゃない。あなたが、あなたの人生を選ぶだけ
会社を辞めることは、逃げじゃない。
おかしい場所から離れることも、もっと自分らしい場所へ向かうことも、どちらも、まっとうな選択だ。
あの日、自由に生きる人に出会って、僕の世界は変わった。
今度は、この物語が、あなたにとっての、そんな出会いになればいい。
――新卒2年目で会社を辞めた、僕の話でした。
